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その瞬間にぼくの目に映る世界が歪んだ。
オレンジ色の灯りも、行き交うテールランプも、老婆の優しい瞳も、何もかもが歪んで、よく見えない。
ぼくは声をあげて泣いていた。
もういい歳の大人であるはずのぼくが、さっき会ったばかりの老婆の前で、
小さな子供みたいに恥ずかし気もなく大声をあげて泣いていた。
「あのこと」があってから素直に泣くことすらできずにいたぼくなのにーーー。

老婆はその温かな手のひらでぼくの背中をひとしきりなでたあと、カウンターに戻って手早く何かを沸かした。
静かな店内にコポコポという優しい音が響いた。
背中に感じる湯気の温もり。戻ってきた老婆から差し出されたそれは、
淡い緑色のマグカップに入ったホットミルクだった。
ぼくは泣きじゃくった顔のまま、振り返らずに軽く会釈をし、そのカップを両手に受けとった。
ーーー温かい。