Santa Claus is coming to town. TOP / 詩小説TOP / sensitive-garden HOME
 
 

 
 

3. サンタクロースの心得


12月第2週の土曜日。
レンタカーの手配と衣裳の材料の買い物をして、僕らの体型に合わせて型紙をおこした。
そして日曜日、彼女が布を切って縫い合わせる作業を進める横で、
僕はプレゼント用の白い袋をつくっていた。
最初 横着して大きな風呂敷よろしく布の両はじ同士を結んで背負ってみたら
「それじゃ泥棒でしょ!真面目にやって!!」と叱られた。
針と糸を持つのなんて、中学校の授業以来だ・・・。
「実際にはプレゼントは2個しかいれないけど、『これから他の子の家にも配りに行くんだ』
っていう膨らみが欲しいわよね〜。」
「綿、詰めとくか?」
「うん。サンタクロースの袋はね、カラになってもいつも少し膨らんでるイメージなのよね。」
「ドラえもんで言ったら四次元ポケットみたいな感じか?」
「・・・ちがうと思うなぁ。なんていうか、あの中に入ってるのはプレゼントだけじゃなくて、
子供達に夢を与えたいっていうサンタ自身の想いっていうか、存在意義っていうか、
そんなものが一緒になってあの膨らみになっている感じがするの。」
「なるほど、あの袋はサンタクロースのアイデンティティーなのか。」
「サンタクロースの心得 そのいち。
 『プレゼント袋はサンタクロースのアイデンティティー。心して配るべし!』」
「おし!」

結局この日は袋が完成。
サンタの衣裳は上半身だけ袖を通せる形になったところまで、で終わった。

ところが。

12月第3週の土曜日、彼女の部屋に来てみると、上着はほぼ完成していて、
衣裳のズボンまでがある程度形になっていた。
「あれ、もう形になってる!」
「今週ちょっとがんばってみた。」
「ええっ!だって、今週は毎日残業で遅かったんだろ?」
そう、だから今週は平日、一度も彼女に会えなかったのだ。
本当に大丈夫か?ちょっと顔色が悪いような気がするぞ?!

僕のいやな予感は適中した。
その日の夕方、サンタクロースの衣裳が間もなく完成しようという時だった。
彼女は僕の衣裳に綿を詰めようと中腰になった姿勢のまま、バランスを崩して床にぺたんと座ってしまった。
「あれ?どうした?やっぱり具合が悪いんじゃないのか?」
「ん・・・大丈夫、ちょっとめまいがしただけ・・・」
額に手をやると、少し熱い。
「いや、おまえ熱あるぞ。やっぱりムリしたんだろ?もう今日はここまでにして寝たほうがいいって。」
「でも、今日トナカイに取りかからないと間に合わないよぉ。」
「ダメ!それで結局行けなくなったらどうするんだ。
 サンタクロースの心得 そのに!『健康第一!』」
「う〜。」
「そうだ!岩田に聞いてみてやるよ。劇団ならそういうの持ってるかもしれない。」
岩田というのは僕の大学時代からの親友で、卒業と同時に自分で劇団を旗揚げして作・演出をやってる男だ。
「え〜、岩田さんのお芝居にトナカイなんて出てきたことないじゃん。」
「いや、かなり昔だけど、そんなのが出てきた事があったような・・・電話してみるよ。
 さあさあ、もう寝て!」
「うーーーーー。」

彼女は渋々奥の寝室へ。早速岩田に電話だ!

「あ、もしもし、岩田?俺。
あのさ、突然だけど 昔お前の芝居でトナカイの面が出てきたやつなかったっけ?
・・・えっ?あ・・・ああ、そうだったっけ?でも、まあ、トナカイっぽいよな?
それ、今でも持ってるか?実は・・・」

サンタクロースになるのも大変なのだ。

 
 
4.へつづく >>>