Garden TOP / 詩小説TOP / sensitive-garden HOME
 
  Garden #5 たくさんの庭、たくさんの人


ぼくはまた見失ってしまったよ。
君の庭は、あこがれのおばあちゃんの庭のような庭じゃなかったの?

たまらなくなって ぼくは
庭づくりの本に 片っぱしから目を通す。
花の庭、樹の庭、石の庭、森の庭、
ふたりの庭、家族の庭、みんなの庭

ちがう、
ちがう、ちがう。
何もかも 君に似ているようで、
何ひとつ 君に似ていない。
どれも君の庭とは ちがう気がする。

たくさんの庭、たくさんの人。

庭はその人の、生き方映す鏡だというの?
このおばあちゃんの庭でさえ、君の庭にはなりえないというの?
君の生きてきた証し 映すその場所には、いったい何があるというの?




そうだ、花!
スカビオサ、ニゲラ、ブーゲンビレア!
君の庭に咲くその花は、いったい
夢中で、ぼくはもう夢中で花の図鑑のページを繰った


           ◇


心が、 ふるえた。
息ができなくなるくらいに、 あふれた、 もう 止め処無く。


スカビオサは、
初めてぼくがプレゼントした花束の、あの花。
ニゲラは、
君が窓辺に飾って、ぼくが「いいね」と言った、あの花。
そしてブーゲンビレアは、
ぼくが君の誕生日に贈った、あの鉢植えの花だ。


君の庭は、ぼくの庭。


ああ、なんで、
君の庭はずうっと前から 側で息づき ぼくを待っていたなんて。

ああ、なんで、
見えない花 見ようとしなかったのはぼく。
健やかなるときも、病めるときも、いっしょに泣いて、いっしょに笑う、
その場所にあるのが、きっとふたりだけの永遠。

抱きしめてなぐさめて包むなら独り。
その庭でひとりぼっち泣いていた君と
抱き合って、ぼくも一緒に泣いてもよかったんだね。

君も、ぼくも、もう、ひとりじゃない。

 
 
Next